ナスの花

2020/05/20

  • ポートタウン

時代は変われど……次世代に残したい港の風情

「ナスの花」女将 山地正枝さんインタビュー

西平山町にオープンして、今年で20年を迎える「ナスの花」。女将の山地正枝さんは、30代の頃に、ご主人と一緒に丸亀のみなと街でこのお店をスタートさせました。
丸亀の漁師の家に生まれた山地さんは、子供の頃から50年以上この街を見てきたと言います。お店をオープンしてからの20年でも、様々な変化があったとのこと。
長きに渡り、この街の変遷を見てきた山地さんが今思うことについて、お話を伺いました。


近隣にお店が増えることは、競合が増えることではない

こちらのお店はオープンされてどのくらいになりますか?

2000年にオープンしたので、ちょうど20年ですね。

きっかけは何だったんですか?

母と一緒に魚料理のかぼちゃ(富士見町)っていう店をしてたんです。そこの分家ですね。だから名前もナスの花。野菜つながりで。

ではもうずっと飲食の世界で?

私? 私はもともと魚屋です。父が漁師だったんで、それで魚屋を。その後母と一緒にかぼちゃを始めて、その繋がりで今に至ります。流れですよ、流れ。

場所をここに選んだのはどうしてですか?

特に理由は……夫がなんか選んできたの(笑)

でまぁ、昔は……っていうか、私たちの時代は大通りに面したオープンな店よりも、ちょっと路地裏の隠れや的な店に靴を脱いで上がるっていうのが流行ってたのよね。
それで、ここは隣が遊食房屋さん(西平山町)なんだけど、当時はマルナカ(スーパー)だったんです。だから「マルナカさんの裏通りです」って、言いやすいし、魚繋がりで海も近いし、いいかなって。

なるほど。今、遊食房屋さんの名前が出ましたが、遊食房屋さんがオープンして以降、お客様の流れは変わりましたか?

というか、20年前は、バブルこそ崩壊してるけれど、まだ飲酒運転の罰則がなかった時代だから、そもそもお客様の流れが今とは違いましたよね。だから一時は影響受けましたよ。今まで1杯2杯引っ掛けて帰ってた人が来なくなったり、遠方のお客様が来なくなったりね。で、お酒の出る量は当然減るし。

遊食房屋さんが出来てからはどうかなぁ……ファミリーは減ったかもしれないですね。隣もそうだけど、もう少しエリア広げたら、回転寿司とか、焼き肉バイキングとか、車で行きやすいところが増えたでしょ。時代ですよね。お客様の層はどんどん絞られてくる感じはありました。

でもね、だからと言って、よくないことばかりかと言うとそうでもなくて、遊食房屋さんがおオープンして、逆に広告打ってくれたみたいな感じで、こちらに流れてくることもあるんですよ(笑)
「隣いっぱいで入れなかった」とか「今日の二次会は遊食房屋なんです!」とか言うお客様もいてね。だから、相乗効果やなぁと思いました。やっぱちょっと不安じゃないですか、普通隣に飲食店出来るってなると。でも、お店が集まってくれた方がええんかなぁって。それまでは、マルナカさんが閉店してしばらく空いてたから、倉庫も多いし、夜暗くてね。県外から来たお客様に「ゴーストタウンみたいですね」って言われたこともありましたから。

20年を経て、今感じること

この20年で近隣にお店も増えれば、来られるお客様の変化もあったと思います。どういう変化を感じてますか?

なんというか、言い方悪いかもしれないですが、世の中全体としてね、食に対しての安売り? が目立つようになってきたんと違うかなとは思います。服とか着るものの安売りはいいと思うんですけど、食の安売りってどうなんかなと。私なんかは「口に入れるもんは……」って思いますね。

というのも「おばちゃんこれ何?」って食材を聞いてくるお客様が増えました。特に魚の種類を知らない人が多いですね。まぁ海老とかね、明らかに見て分かるようなものは聞かないですけど。小さい頃に食べさせてもらってないんやろうなと。知らないから、価値も分からなくて当然なんですけど、なんか寂しいですよね。

あとは生ものが食べられないってお客様も増えました。宴会とかでも「オール肉で」って言われることもあって、初めて言われた時は「えっ!?」ってなりましたね(笑)

「うち魚料理専門です……」ってなっちゃいますね。

ね(笑) でもそれも時代かなって感じはあります。だからランチもね、ステーキとか天ぷらとか、そういうので対応できるようにはしましたね。

今日ご準備いただいたのは、どのランチですか?

漁師どんぶり膳です。常連さんはよくこれを頼まれますね。うちのランチはちょっと高めなんですよ。大体1000円前後から1500円くらいまで。一時ね、周りの相場に合わせて、780円とかで安く出してたんやけど、スタッフも少ないから、たくさん回すのは大変で。
それである時から、コーヒー付けて、値段も上げて、来てもらったお客様にゆっくりしてもらおうって形にしたんです。値段上げたら、多少減るかなっていう心配もあったんですけど、実際は減るどころか、来てくれてます(笑) 

美味しければ来てくれるってことですか?

いやー……美味しいかどうかはお客様が思うことだから分からないけど、自分が食べたいものをお客様に出したいし、自分が食べたくないものはお客様に出したらあかんやろって、それだけのことです。本当にそれだけ。それしかできないですからね。

ここで暮らすお年寄りが楽しめる場所を作りたい

今後の展望についてお聞かせください。

この年やから、今後の展望も何もないけど……私、本当はお年寄り相手に1人でやりたいんです。

お年寄りですか?

そう。本当はね。この辺りお年寄り多いでしょ。でもお年寄りが行けるお店って無いのよ。どんどん閉店していってね。お年寄りが楽しめる街でなくなったのは寂しいかな。
昨日も、近所のおばちゃんと話してて、「ここら辺で今行けるところってどこがあるんかな?」「うちんとこ(ナスの花)くらいなんかな」ってなってね。

そうなんですね。お年寄りというと幅が広いので、例えば何歳位の人をイメージされてますか?

60代70代かなぁ。お客様の層って大体、お店のオーナーの年齢から10歳前後とかっていうけど、オーナーが70代のお店があるかって言われたら、藤ちゃん(北平山町)は70代迎えられたんかな? それぐらいなんですよ。
昔は時代も良かったから、お年寄りのオーナーがやってる大衆割烹っていうんかな、今で言う居酒屋みたいなのがたくさんあってね、当時は「腰掛け」とか言ってたんやけど、まぁ賑やかでした。

当時の人たちがわざわざ食べに来るのって、話をしに来てるのもあるのよね。だから、カウンターで「女将も飲みな」って1杯ごちそうになったり、隣同士のお客さんで盛り上がったりとかね、そういうやり取りが今はなくなったなとは思います。
ここに来てくれてるお客様を見てても、そういうやり取りや、受け答えができるお店が減ってる印象は受けますね。

こちらには、そういった感じで1人で来店されるお客様っていらっしゃいますか?

減りましたね。今は宴会や接待が主なので、来てもちょっと違うんでしょうね。
お客様のお店での過ごし方が変わったかな。 昔はうちみたいなお店とか小料理屋みたいなところはね、カウンターがあったら、カウンターから客席が埋まっていくわけ。ところが今は部屋(個室)から埋まっていくんですよ。 ある時から急に「個室、個室……」って言われるようになりましたね。

だから、うちのカウンターも今はほとんど使ってないね。時々1人で来られるお客様でも個室を希望する人がいますよ。今もうスマホがあるでしょ。だからかどうか分からないけど。

そうですか。私なんて話しかけて欲しいがために自らカウンター行きたいタイプなので、ちょっとそれはびっくりです。

そんな人は珍しいですよ。年齢もあるでしょうけどね。まぁこちらはね、話の相手をしなくていいと思うと楽っちゃ楽ですよ? 常連さんは別として、初めて来られるお客様だと、お話してても距離感とか多少気を使うわけで。だから楽なんですけど、なんかね……「あー時代だな」っては思いますよね。

まぁでも、臨機応変にね、対応できるところは対応していきたいとは思います。

港町はこれからどうなるといいなと思いますか?

やっぱりいいところは残してほしいっていうのはありますよね。風情。港があって、漁船が止まってて、町に暮らす人がいて。そういう景色は時代が変わっても残って欲しい。
近頃子供も減ったしね……なんか気のせいか、犬とか猫も減った気がしますよ(笑)

せっかくね、城下町で港町だから。雰囲気もあるし、そういうのを残したまま、若い人たちに頑張ってもらえたら嬉しいです。


「寂しい」とおっしゃる山地さんのお話から、時の移り変わりには馴染んだモノとの別れが付き物で、それは年齢や経験に関係なく、誰にでも訪れるものなんだなと改めて感じました。
寂しいとおっしゃる一方で、みなと街で働く若いオーナーさんたちをものすごく応援していて、街のこれからに期待しているという山地さん。飾りっけの無いお人柄とストレートな言葉に、とても魅力を感じました! ご協力ありがとうございました。